【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
薄氷の純愛
「―本当に、やる気ですか。母上」
「…………母など、呼んでくれるとはな」
「母ではありませぬか」
「……そうだな」
母は、蝋燭を見つめて。
「疲れた……だから、どうか、休ませておくれ」
そう言われて、息子は……皇子は、小さく頷く。
端正な顔に、影を落として。
「……母上の望みとあらば」
その思いは、皇子にとっては心からの思いだった。
今では、母に幸せになって欲しいと願っていた。
皇子の実の母を殺した相手だと理解しつつも、生来の気質のためか、皇子は目の前の母を恨む気にもなれず、理解のいい、使いやすい息子を演じてきた。
でも、それは目の前の母を喜ばすことはなく、こうして、母を最期の道へと誘おうとしている。
「―優しい息子に、最期に話をしようか」
母は、婚礼の衣装を身に付けていた。
かつて愛した人に、語った姿だという。
幸せになるために、その衣装を纏っているのだ。
「もっと、近くにおいで。愛し子よ」
間違いなく、彼女は自分を愛してくれていた。
残念ながら、その愛に気づくのは遅くなってしまったけれど、それは彼女の思惑のうちだったんだろうと思う。
「―……幸せになれ、流雲」
名前を呼ばれ、流雲は苦笑した。
「卑怯ですよ、母上」
母は―……蘇貴太妃は、
「……葉妃と共に、そなたが幸せになることを祈ってる」
と、"母親の顔”で、微笑んだ。