【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「恐らく、皇后もそのことについて調べている。父上には言いたいことが沢山あるが……翠蓮に連絡を取る方が先だ。父上と皇太后、そして、翠蓮を呼んで欲しい」


「それは構いませんが……」


礼月が視線を向けるのは、毒矢の刺さった箇所―つまり、肩。


「傷のことなら案ずるな。豹揮兄上が手当をしてくれたのなら、使っている薬は翠蓮のものだろう。翠蓮の薬は間違いなんてない―……」


その時、扉が勢いよく開く。


そして、飛び込んできたそれは、黎祥に抱きついてきた。


「―……心配、かけたな」


泣く、声がする。


首元に滴が落ちてきて、強まる抱擁に片手で返す。


流石に、手はあげられないらしい。


豹揮が出て行ったから、声をかけてくれたんだろう。


震える手で、必死に抱きついてくる翠蓮は。


「私を庇うなんて……っ!」


と、怒ってくる。


「すまない……でも、お前を喪うわけにはいかなくて」


「そんなのは、私も同じよ!」


髪が乱れている。


翠蓮の涙で濡れた頬を撫でていると、翠蓮の背後でこっそりと礼月が出ていくのが見えた。


気を利かせてくれたんだろう。


礼月の優しさに感謝しつつ、翠蓮に言う。


「死なないよ。もう二度と……お前を置いては死なない」


前世の記憶が蘇り、そして、それが翠蓮を雁字搦めにしているんだろう。


不安を映し出した翠蓮を再度抱き寄せて、背中を撫でる。



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