【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
―宵に満ちた世界の中で、黎祥は宝玉に触れるように、翠蓮に触れた。
冷たい空気を孕んで、二人を包み込んで。
臥室に差し込む月の光が、二人を照らす。
婚姻の時に身につける紅蓮の衣装も、
婚礼の夜にいる、花嫁が顔を隠すための綾絹も、
華燭が照らし出す紅閨もないけれど。
翠蓮は自分のことを心の底から、幸せ者だと思った。
何も要らなかった。
彼がいれば、何もいらないと思えるほど……翠蓮は、黎祥を愛してしまった。
一晩中、二人は抱き締めあった。
これが、最後となるはずの、二人の"婚礼”であった。
一晩中、幾度も囁かれた言葉に、
『愛している、翠蓮』
翠蓮は、涙を流した。