【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「―何かあったな」
遠方より聞こえてきた、悲鳴。
甲高いそれを聞き付けた三人は、顔を上げた。
「黎祥」
「はい」
「犯人はな、紅春宮と雪花宮の主だ。さあ、お前はどちらに向かう?」
問いかけられて、
「―紅春宮に向かいます」
黎祥は迷わず、そう返した。
「わかった」
その返答に口角を上げた父上は、
「なら、全力で補佐をする。思い存分、粛清して見せろ」
あの日のことを、どこかで見ていたのだろうか?
楽しそうな父は、黎祥が兄を殺すところを見ていたのか。
それでこんなことを言うなんて、彼がどれだけ非情なのか表しているんだろうけど、それでも、彼はやっぱり自分の父だと実感してしまう黎祥もまた、他の人の目から見れば、父に似た非情な皇帝なのだろう。
即位前には二カ国滅ぼし、兄を殺し、皇位を簒奪し、古から受け継がれてきた、存分に血にまみれた椅子に、黎祥は腰を下ろしているのだから。
「……何か、策がおありで?」
父上の考えなら、豹揮も反対することは無いだろうと思いながら、起き上がり、床に足をつく。
少し、倦怠感を覚え、怠けた体に鞭を打って、顔を上げる。
「父上も全て、把握しているんですね」
策を張り巡らしているのなら、知っているはずだ。
父は、
「鳳雲に怒られるなぁ……」
と、どこか嬉しそうにぼやきながら、黎祥の質問には答えなかった。