【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『うわー、十六夜、それ、あの方の贈り物?』
『う、うん……』
愛逢月のせいで、他の妓女もそう呼ぶようになっていた、私の愛称。
あの人に愛されているんだと、全身で感じられた。
幸せだった。
『柘榴石じゃない!あの方の瞳みたいね』
他の妓女達は、心から祝ってくれた。
きっと、莉娃はあの頃が一番、幸せの絶頂にいた。
―そう、私達は知らなかったんだ。
だって、囚われた鳥だから。
この国の皇族の瞳の色が、基本的、赤だって。
皇族に関するもの(過去、公主が降嫁してきたなど)以外で、ありえないってこと。
彼の瞳は、赤かった。
そして、教えられたこの国の皇族の紋章が縫い付けられたものを、彼は何度か、莉娃の目に触れないように隠していたこと。
(初恋の人と、兄弟……?)
会えない日々は、不安を募らせた。
早く迎えに来て欲しいと、心から願った。
―でも、彼は翌月も、翌々月も現れなかった。
他の妓女達は『捨てられたんだ』『貴族だから、気まぐれだろう』『諦めずに、次を頑張れ』『十六夜は美人だから!』『客を取れ』…………。
―嗚呼、世界から、全ての音が消えていく。
音を立てて、これまでの数年が崩れていく―……。
心は砕け散って、泣くこともなかった。