【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
愛逢月が来なくなって、三ヶ月。
莉娃は生きる為に、客を取ることにした。
とは言っても、相手は兄だった。
『兄様……』
『女将から話は聞いた。……辛かったな』
馬鹿にする訳でもなく、憐れむのでもなく、同情の目を向けるわけでもなく、兄は莉娃の健康を案じ、そして、莉娃の助けのおかげで安定したと、喜んでくれた。
兄は両親がどんなふうに莉娃を扱っていたのか知っていたのか、そして、莉娃がどれほど、妹を嫌っているのかを知っているのか、兄は妹の話も、両親の話も出さないまま、笑顔で莉娃と話してくれた。
『今日、泊まって行ってもいいか?』
『え、で、でも……』
泊まりは、馬鹿高い金が飛ぶ。
漸く、家を持ち直したそうなのに―……心配して言うと、
『大丈夫だ。すぐに、お前を連れ出してやるからな』
と、兄は言ってくれた。
『遅くなって済まない。もっと、早く……十五年前、俺に力があれば―……』
莉娃の両目からは雫が零れて……その日は、愛逢月のことを思って、嗚咽した。
兄は何も言わず、優しく、背中を撫で続けてくれて。
そして、大金を払って、絶対に莉娃に客を取らせないように厳命して行った。
―破れば、店も命もないと脅して。