【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
兄は暇さえあれば逢いに来てくれて、そして、他愛もない、今まで手紙でしていたやり取りを直接してくれた。
表情を伺いながら、話してくれる兄。
皇帝の側付きということもあって、中々、身請けの準備が出来ないらしい。
謝られたけど、兄が訪ねてきてくれることは心の慰めになっていたし、楽しかった莉娃は
『気にしないで』
と、兄に返した。
兄は義理堅く、どこか、初恋の人を思い起こさせる。
だから、ある日、両親の位牌を持ってきて、踏みつけたことは驚いたな。
踏んでいいと言われるから、
『地獄に落ちるわ』
と、怯えると、
『どうせ、俺も落ちる。戦で、幾万の人を殺しているんだから』
と、兄は言った。
『でもそれは、民を守るためでしょう?兄様は悪くないわ』
『そうか?でも、人殺しは悪いことじゃないか』
『……』
『―良いかい、莉娃。良いこととか、悪いこととか、そんなものは誰かの物差しで決められるものじゃない。お前が信じると決めたものなら、ずっと信じ続けなさい』
俯いた莉娃の頭を撫でて、笑いかけてきた兄。
兄の勧めを受けて、莉娃は思いっきり、足で踏んだ。
気持ちよくて、また、ふり積もった憎しみが雪のように溶けていくようで。
一生、ここにいることになってもいいと思えるほどに―……。