【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『莉娃!莉娃、今日はな、お前が言っていた本を持ってきたんだ』
兄は十六夜とは言わず、暇があれば来てくれた。
そして、いろんなものを持ってきてくれるから……それはまぁ、妓館の皆々様には人気があって。
『兄様、このままだと破産するわ。私のことはいいから、兄様は自分のことを考えてちょうだい』
『何だ、心配してくれているのか。莉娃』
兄は笑いながら、莉娃への贈り物を見せてくる。
『大丈夫だよ。渡しているものは全て、前当主夫妻が残したものだから』
『えっ』
『取っておいたんだ。思わぬ所で役に立って、家も広くなったし……俺も万々歳だよ』
……兄は少し変わっていた。
兄の話から、妹に対する認識も少しずつ、変わっていっていた。
だからといって、心から仲良くすることは難しかったのだけど。
心の中には、愛逢月がいる。
忘れられない私は馬鹿なんだろうか?
あの人は、私を裏切ったのに。
兄は愛逢月を探し出してやるって言ってくれたけど、莉娃はそれを止めた。
会ったところで、何を話せばいいというのだろう?
送られた腕飾りだって、何度も捨てようとして、捨てられなくて……嗚呼、本当、馬鹿みたい。
兄と穏やかな時間があるのなら、それでいいじゃないか。
花街にいるけれど、そんなの気にならない。
安心して、ここにいれる。
兄もまた、それに対する莫大な金を動かしてくれている。