【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『惚れた男が相手だった。そして、身請けが決まっていたんだ!水揚げの後、そんな薬を飲む人間なんていない!』
女将は何度もそう言って、暴れる莉娃を取り押さえた。
何度も言い聞かせてくれて……落ち着くまでは、時間のかかって。
兄は誰かの護衛をすることになり、忙しくなったらしく、来なくなって。
不安で、不安で、苦しくて―……それで。
『……外に出てもいい?』
莉娃は女将に尋ねた。
女将は金の亡者ではあったけど、決して、莉娃たちを乱暴に扱うわけでもなく、丁重に扱った上で商売をしていた。
『出ていって……どうするんだい』
煙管を加えて、尋ねてきた女将。
顔はおっかないけど、莉娃を見た瞬間、煙管を放り投げてくれるのは、立派な優しさだろう。……世間の母にしてみれば。
莉娃にしてみれば、この子は産まれるべきではないと思う。
だって、愛してあげられない。
ちゃんと、育ててあげられない。
あの人はもう二度と、私の元に来ないのに。
『……お前の兄に手紙を出してみよう。それまではこの館からは出ても、外の世界へ行っちゃあいけないよ』
女将の忠告に頷いて、散歩がてら、莉娃は花街の中を彷徨いた。
柄の悪い人間、多くの妓女……見慣れた、光景。
三十にもなる莉娃。
十五から、ここにいるのだ。
よもや、今の莉娃からすれば、何も珍しくない。