【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『私に残ったのは……この腕飾りと新しい命』
腹を撫でて、息をつく。
本当、いっそのこと死んでしまいたい。
そうすれば、忘れられるのに。
(でも……)
莉娃は、それなりに名の馳せた妓女だった。
だから、花街の中で自害なんてしたら、女将に迷惑がかかってしまう。
―莉娃が死んだら、兄は泣いてくれるかな、なんて。
(死ぬ勇気すら、ないくせに)
この子と一緒なら、寂しくないかな?―いや、私の独断でこのこの命を奪うことなんて、出来ないね。
親の身勝手さを、莉娃だって恨んだのだから……。
それから間もなく、兄は駆けつけてくれた。
そして、花街から出ようと言ってくれたんだ。
行く宛もないのに……そう言うと、兄は尹(イン)という家の養女となれるよう、手続きをしてきてくれたと言う。
兄の家―即ち、実家に戻ることも可能だった。
でも、莉娃は既に世間からは消された身。
莉娃がいきなり現れて、子供を産むなんて―……兄に、どんな噂がつくのか分からない。
それを恐れて、莉娃はその養女の道を選んだ。
尹家の方々はとても優しくて、莉娃が与えられなかったものを沢山与えてくれた。
花街から来たことを知っていただろうに、優しい当主老夫婦は莉娃を支えてくれた。
彼らには息子と娘がいたが、娘は後宮内の事件で亡くなってしまい、息子は戦死、遺された孫娘も病死するという、運についてない家で。