【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『はあ、またか……』
老夫婦はよくため息をついて、手紙を眺めていた。
内容を尋ねると、皇帝の妃選びの話しらしかった。
莉娃を見かけた役人がいたのか、莉娃に入宮の命が下ったのだ。
老夫婦は娘を失った経験があるからか、決して、莉娃に後宮に行くようにとは言わなかった。
莉娃は全身が沸騰するほどの憤りを憶えながら、腹を抱えた。
今でも似ている人を見かけたら、自然と目で追ってしまう、愛した人との子供がいるお腹を。
英雄だかなんだかは知らないが、皇帝の慰めものになるつもりは無い。
妹が嫁いだ男に、嫁ぐつもりは―……。
『莉娃、気にしなくていいからな』
それでも、王命に逆らえば、何か罰が下る。
莉娃が気にしていても、老夫婦は笑顔で『大丈夫』だと言ってくれた。
震えていると、抱きしめてくれた。
生まれてきた時から、知らなかった温もり。
一度手に入れて、失った温もり。
『自分の体を大事にしなさい。赤子は順調か?』
老夫婦は、莉娃を守ろうとしてくれた。
この二人を両親だと思って、生きていこうと思った。
彼らが、大切な人達になってしまったから。
この人達なら、裏切らないでいてくれると今度こそ、信じたかったから。
その時、頭の中に愛逢月の顔が浮かんだけれど、莉娃は必死に振り払い、そして、老夫婦が楽しみにしているこの子は老夫婦の為にも、過去の自分のためにも、産んであげようと思った。
ずっと持ち歩いていた、鬼灯、牡丹、鳳仙花、芍薬、水銀が混ぜ合わさった堕胎薬を捨てて。