【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



多くの人間が集って、火を消そうとしている。


『何っ、が……』


震えて、体が動かない。


この中にいるの?


お父様、お母様、翠蓮が……?


涙で、視界が滲む。


『……っ、た、助けなきゃ』


ちゃんと怖がっているくせに、自然と体が動く。


炎に巻かれた、扉に手を伸ばす。


『何をやっているんだ!お嬢ちゃん!』


―今にも火の中に飛び込んでいきそうな莉娃を、火消しの一人の男性が止める。


『止めないでっ、あの中に、娘が……っ!両親が……っっ!!』


莉娃がそう叫べば、火消しの人が驚いた。


喉が熱い。


熱気がすごい。


焼けそうだ。


この中に、あの三人は―……。


『―どうしたんですか』


喉が引き攣りそうになる中、聞こえてきた声。


『殿下!それが、この家の方だそうで……』


火消しの男が会話を始めた、"殿下”という人。


涙で滲んだ視界に、映し出された男性―……。


瞳は虚ろで、こちらを捉えているのか居ないのかはわからない。


でも、その瞳は赤い。


『…………愛逢月?』


見覚えのある、人だった。


掠れた声で、名前を呼んだ。


懐かしい、貴方の名前。


でも、貴方は。


『―……どこかで、会ったことがありましたか?』


―頭の中を、頭の奥を、鈍器で殴られた気分になった。


目の前が真っ暗になって、それなのに、燃える音は聞こえ続けて。


また、消えていく。


ただ、幸せを……いつだって、今だって、昔だって、ただ、ただ、幸せになることを望んだだけだったのに。



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