【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



『でも、ここは……』


『……』


座り込んで、俯いた莉娃を心配する貴方。


(覚えていてくれては、くれなかったくせに……)


いや、覚えているのかな。―見えてないだけ?


虚ろな目。


(違う。希望を抱くな。この人は、"あの時”の名前を呼んでも、首を傾げたんだから)


赤い瞳に吸い込まれそうになりながらも、両親の焼けてしまった遺体を持っていく役人に近寄って。


『ごめんなさい……』


身も世もなく、泣き叫んでいる自分を心の奥に閉じこめて。


一筋だけ、涙を流して謝った。


この人たちは莉娃を守ろうとしてくれた。


結果、死んでしまったんだ。


『もう、いやだわ……』


両親は死んで、


復讐したい人たちも死んで、


愛した男には忘れられて、


翠蓮も行方不明で。



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