【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『さようなら……』
失うものはもう、何も無い。
心に大きな穴が空いて、音を立てて崩れ落ちる。
もう、心を満たすものは無い。
全て、なくなってしまったんだから。
泣く気力もなかった。
泣いてはいけないと、どこかで私が止めていた。
誰にも、自分にも消せない傷痕が深くなって、きっと、もう、死ぬまで消えない。
(―それなら、全てを、消してしまおう?)
全部、全部、もう要らない。
愛も、恋も、友も、そんなの。
(手に入れたって、もろく儚い)
馬鹿みたいだね。ほら、騙されて。
心のどこかで、昔の私を嘲笑う自分がいた。
私の横を通り過ぎて、
既に消えた貴方を追い求めることはやめて。
『……後宮?』
情報屋として、下町で名を馳せていた男を捕まえて、莉娃は調べさせた。
すると、その下手人とされる女は、後宮にいた。
後宮入りしたのは、火事の日の一週間後だと言う。
かなり、慌ただしい入宮だったと。
(そう、後宮……)
いつだって、そこに莉娃の望むものは集まるのね。
兄にも黙って、莉娃は後宮入りを決めた。
下級妃?―どうでもいいわよ。
位を得られれば、それで良かった。