【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



『さようなら……』


失うものはもう、何も無い。


心に大きな穴が空いて、音を立てて崩れ落ちる。


もう、心を満たすものは無い。


全て、なくなってしまったんだから。


泣く気力もなかった。


泣いてはいけないと、どこかで私が止めていた。


誰にも、自分にも消せない傷痕が深くなって、きっと、もう、死ぬまで消えない。


(―それなら、全てを、消してしまおう?)


全部、全部、もう要らない。


愛も、恋も、友も、そんなの。


(手に入れたって、もろく儚い)


馬鹿みたいだね。ほら、騙されて。


心のどこかで、昔の私を嘲笑う自分がいた。


私の横を通り過ぎて、
既に消えた貴方を追い求めることはやめて。


『……後宮?』


情報屋として、下町で名を馳せていた男を捕まえて、莉娃は調べさせた。


すると、その下手人とされる女は、後宮にいた。


後宮入りしたのは、火事の日の一週間後だと言う。


かなり、慌ただしい入宮だったと。


(そう、後宮……)


いつだって、そこに莉娃の望むものは集まるのね。


兄にも黙って、莉娃は後宮入りを決めた。


下級妃?―どうでもいいわよ。


位を得られれば、それで良かった。



< 848 / 960 >

この作品をシェア

pagetop