【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



ある日、彼女は一人の女の子を連れてきたわ。


莉娃が、三十六の時のこと。


気がつけば、後宮に入って、二年経った日のことよ。


連れてこられた少女は、三つ。


不安げに、母親の名前を呼んでは探している。


彼女はそんな少女の肩を強く掴んで、自分が母親だと教えこんで。


怯えた少女は、泣いていた。


幼いながらに何かを感知していたのか、大きな声で泣き続けた。


その姿を見て、勝手に体が動いたのよ。


『昔ね、私の異母姉が第二皇子を盗んだらしいの。―ほら、第二皇子のお母様は亡くなったじゃない?』


そう言って笑った、彼女を思い出したのだ。


そんなの、その第二皇子の母親を殺したのも、お前の異母姉だろうと思った。


阿呆臭くて、聞き流していた話。


どこでどう転がったのか、その後、第二皇子の母親は蘇貴妃ということになってしまっていた。


翠蘭が産めたはずもない、皇太子が彼女の子供となっている所にも、後宮の作為と闇を感じた。


でも、この時の莉娃にとって、本当にどうでもよかったんだ。



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