【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『うわぁぁんーっ』
大きな声で泣く少女を、莉娃は血だらけの手で抱きしめた。
『大丈夫。貴女は、何も見ていないわ』
それが、初めてした"人殺し”。
少女を母親の元に帰してやろうと、手を取った。
安心してくれたのか、泣き止んだ少女はぎゅっと、莉娃の手を握ってくれた。
血で汚れた、莉娃の手を。
(翠蓮が、生きていれば―……)
いや、生きているんだろう。
この空の下のどこかで。
翠蓮が幸せであることを願いながら、その少女を可愛いと思いながら、莉娃は少女の母親を、後宮の中から探し出そうとした。
幸いか、懐妊すらしていなかった莉娃の殺した女の死んだ原因についてそう、調べる人もいなかった。
皇帝が興味を示さぬものについて、そう調べる人間は、この後宮にいないから。
莉娃は罪に問われることもなくて―……少女が懐いてきてくれたある日、少女の母親が娘を失った悲しみで死んでしまった。―自害だった。
(もう少し、早かったら……)
少女を抱きしめて、嘆いた莉娃を少女は不思議そうに見てきて、そして、頭を撫でてきた。
『ごめんなさい……』
救えなかった。
どうして、生きて幸せになるべき人間が、幸せになれないのかな……?
少女の母親は後宮内で多くの人の味方となって、その恩情で、後宮で生きていくために、一夜だけ、愛を受けた人だった。
『露珠(ロジュ)……』
彼女が自害した大きな原因は、娘の遺体が見つかったから。
でも、それは作られたものだった。
本当は、死んでなんかなかったのに。