【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『露珠』
たくさん、名前を呼んだわ。
貰えなかった愛情を、
あげられなかった愛情を、
心の穴を、露珠で埋めるように。
―二年後。
露珠は五歳となり、莉娃のことを『お母様』と呼んでくれるようになって、そして、時代は移り変わる。
いつものように、当たり前に皇帝の横を―……淑祥星様の隣を歩いていた翠蘭と念彩蝶……時が経つ事に、何もかもが変わっていく。
息子の皇子共々、祥星様の恩情で追放された、念彩蝶。
病に倒れた祥星様は皇帝の座を、当時三十だった皇太子―淑勇成に譲り、隠居なさった。
莉娃達は後宮の奥深くで生きるように、命じられた。
一度も寵愛を受けたことがなかったものは、追い出された。
偽りにしろ、寵愛を受けていた莉娃は残れた。
露珠もいたから。
子供を産んだ女達は残れたのだ。
例え―それが、自らの腹から生まれた子ではなくとも。
そして、暗黒の時代がやってくる。
祥星様がいなくなった後宮に、留め具はなくて。
莉娃は露珠に危害を加えるもの、
翠蘭に危害を加えたもの、加えそうなもの、
その他にも……多く、手を染めた。
全ては、我が子を守るため。
権利だけを求め、我が子を、国の民を愛そうとはしない、有象無象の女達と一緒になりたくなかったからだ。
自分を、自分の地位だけを愛すような、そんな女に……女達に、皇帝を支え、愛されなくても守り、我が子を守るために奔走して、他の妃の子供も愛し、国の民のことを愛している翠蘭を穢されたくなかったのだ。