【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
皇帝となった勇成の命令か、それとも、家からの命令か、勇成の息子の中から選ばれたはずの皇太子―淑成桂―の母、栄妃を指さして、死にかけの宦官が莉娃に言った。
『あの御子は、祥星様の御子だ……』
―多くの妃が宦官を忌み嫌う中で、莉娃は遠ざけることとなく、彼らとも並んでいようとした。
そして、落とされたその情報。
宦官はその一言の後、死んでいた。
そして、古参の右大臣に問い詰めた。
右大臣はそれを認めた。
つまり、彼女も同じなのだ。
莉娃が初めて殺した、あの女と―……憤りは募った。
けれど、祥星様の妃の一人で、第一皇女を、(生まれてすぐに死んでしまったことになっているらしい)第三皇子を産んでいた彼女は、自らの地位を愛す人だった。
(殺す必要はないか……)
その事実を知っていた宦官が、
古参の人間が、
暴君となった勇成を見放して、宮廷を去った今、
栄妃のことを知るのは、調べた莉娃だけ。
祥星様の妃達は後宮内からでも調べようとはしなかったし、他人のために動こうなんて考えるはずもない。
彼女たちはもたらされた情報だけを、信じている人達だ。
―翠蘭を、除いてね。
でも、翠蘭にも知らせなかった。
彼女はただでさえ、国のために奔走しているから。
祥星様に任された、この国を守るために。
だから、栄妃を見逃した。
何をしたって、暴君の勇成は傷つくことなどないと、確信したからだ。