【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「―これで、私の話はおしまい」
莉娃は手を叩いて、ニコッと笑った。
目の前にいる翠蓮は、拳を震わせている。
「……黎祥の妃、誰を殺しましたか?」
尋ねられた莉娃は考え込むふりをして、微笑んで。
「誰も殺していないわ。―ううん、貴女を害しようとした妃のひとりを脅して、他にも隠れている貴女の敵を排除しようとした夜はあったわね。その時、現れたもう一人の貴女の信者によって、死にそうになったのよ」
衣をまくり上げて、傷を見せる。
笑い続けていても、翠蓮たちの表情はあけない。
「……ずっと、この後宮を見ていたんですか。真実のところまで……ずっと、ずっと。そうやって、大切なものを守ろうとしてきたんですか。その為に、こんなことまで」
翠蓮の問い詰めるような言葉に、手で止めをかける。
人を、無残に殺す予定はなかった。
自然と、そうなってしまっただけで。
「昔はね、両親の愛が欲しかったの。そして、成人してからは愛した人を、育ててくれた小姐たちを守ろうとした。子供が出来てからは子供を守ろうとして、新しい両親に出会えた時は、二人を大事にしようと思った」
「……」
「いつだって……後宮でだって。守りたかった。それだけだった。露珠に幸せになって欲しかった。貴女に、笑い続けていて欲しかった……」
露珠の首を絞めた、自分の手のひらを眺める。
露珠を殺すつもりはなかった。
露珠は皇族だ。
少しでも手にかければ、莉娃は処刑となる。
あの火事で、尹家は滅んでいるから……問題ない。
親族が犠牲になる心配もなく、安心して、地獄へ行ける。
―そう思ったのに。