【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「私、に……?」


翠蓮―いや、皇后となった彼女は、不思議そうに首を傾げた。


強かで、美しいその姿。


自然と、あの妹を……白蓮を思い起こさせた。


強い瞳は、初恋の人……鳳雲様に似たのだろうか?


「どうして、私……」


「……」


莉娃は嘆息して、翠蓮を見た。


翠蓮は莉娃の半生に同情してくれたのか、頬が濡れていた。


その頬を撫でて、莉娃は微笑する。


「生まれてきた時から、そなたは泣き虫だ」


花街で使っていた、言葉。


普段は口を開かず、犯行を行う時はこの言葉を使った。


聞きなれない音に、彼らが戸惑うと予想したからだ。


案の定、戸惑ってくれた女達。


莉娃が、大っ嫌いな人間達。


「生まれ……」


莉娃は情報を集めて、確信していた。


彼女は……李翠蓮は自分の娘だと。


あの時、鳳雲様が助け出してくれたのだろうか。


白蓮が育んでくれたのだろうか。


話によれば、白蓮は死んだそうだが。


翠蓮はハッとして、莉娃の衣を握った。


「生まれって……!!」


後宮内のことをなんでも知っているように、


莉娃は彼女のことも、よく知っている。


何事にも好奇心が旺盛で、鳳雲様と白蓮は手を焼いたらしい。


翠蘭は事実上、白蓮とは姉妹関係を築いていたから、話は聞いていたんだろう。


そしてきっと、彩蝶のようだと思いながら、彼女は翠蓮を見ている。


好奇心は旺盛だけど、注意力は欠かさない。


穏やかなように見えるけど、やることは、誰よりも残酷。


祥星様の、勇成の時代に名を馳せていたらしい、祥星様の御兄弟。


(……本当、よく似ている)


前髪を上げて、額を軽く撫でてやる。



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