【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
未だに静かな心臓は、ゆっくり鼓動を刻んでる。
「……愛しておったよ。翠蓮」
君の中から、莉娃の記憶は消えてしまっているだろうけど。
目を瞬かせた翠蓮は、
「話の中の、娘は……私?鳳雲お父様が救ってくださって……私は生き抜けたということ?」
「……」
何も言えなかった。
そこの真実までは、莉娃も知らない。
「じゃ、じゃあ、父親は……」
戸惑いを隠せないように、翠蓮は
「まさか……話の中に出た、愛逢月……?」
と、正解を述べた。
話を真面目に聞いてくれていて証拠だろう。
莉娃は我が娘ながら、立派に育っていることが嬉しかった。
正解を求めるように縋ってくる翠蓮の頭をもう一度撫で、正解も不正解も言わず、莉娃はただ、笑みを深めた。
「白蓮に、お礼を言わなきゃな……」
こんなにも、真っ直ぐな良い子に育ててくれた。
あんなにも、莉娃が妬んでいた妹は最期まで、何を考えていたんだろうか。
鳳雲様に愛され、家を飛び出して。
二人の息子を授かって、ある日突然、夫が連れてきた翠蓮までもを愛おしんで、育てて。
―嗚呼、今、貴女と真っ当に話をすることが出来たなら。
莉娃は真っ直ぐに、彼女の結婚を祝えただろうか。
幸せになってね、と、言えただろうか。