【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「鳳雲お父様の死も、白蓮お母様の死も、莉娃お母様が死を選んだことも、全ては運命の上だったと理解してしまっているからでしょうか……」
「……そうだね。大きな、大きな、人には逆らえない天の采配。でも、逆らえないからこそ、人は天を恨めるんだ。恨めるものがあるから、人は生きていられる」
「……っ」
「君はそのままでいいんだよ、翠蓮。君は多くの両親に愛されて、育ってきた。愛されていることを忘れずに、人に、国民にその愛情を返してあげてくれ」
背中が合わさる。
翠蓮は目を閉じて、小さく頷く。
「―はい」
翠蓮はゆっくりと、歩み出す。
彼女の前に立って、
「ごめんなさい」
と、一言謝る。
すると、それだけで―……それだけで、彼女は涙を流して。
小さく、何事かをつぶやく。
翠蓮はそれを聞き取ろうと必死にそばにより、彼女を抱きしめた。
祥星様もそばに来てくれて、媽妃の頭を撫でて。
不思議と火が寄ってこないその場に、腰を下ろして。
「愛せなくて、済まなかった。―大儀であったな。紗音(シャオリン)」
それは、彼女の名前だろうか。
ハラハラと涙を流す、紗音。
翠蓮が知っている名前とは、勿論、全然違う。
もしかしたら……彼女もまた、
誰かに"大丈夫だよ”と言われたかったのかもしれない。
辛くないように、うずくまっている人生を人は望む。
辛い思いをしたくないから、人は逃げる。
それでも、試練はやってくるんだ。
どんなに逃げたくても、いつかは必ず。
―天からは、逃れられないから。