【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「夏艶!何を考えて―……」
「離してっ、貴女に任せたりはしないわ!自分の娘のことだもの。ちゃんと、私がっ」
救い出さないと。
あの日、助け出せなかった分も。
(ねぇ、才伯様―……)
覚悟を決めて、火の中に飛び込もうとしているのに、
「おやめ下さいっ、あんた、馬鹿ですか!?」
止めてくる、若琳。
「馬鹿よ!だからこそ、せめてっ、蘭怜を救い出せなくても、あの子と一緒に―……」
逝ってあげたいの。
業火に呑まれるような、風。
全てを燃やし尽くすような、火。
「―それは少し、僕が困りますね」
その美しさ、非情さに魅入りながらも、若琳に対抗し続けていると、そんな中から、聞こえてきた声。出てきた、男性。
「漸く、貴女を娶れるのに」
その男性の腕には、乳母と蘭怜が抱かれていて。
二人とも意識はなかったけれど、外傷もない。
「蘭怜っ」
駆け寄って、娘の無事を確かめる。
若琳は乳母を叩き起こそうとしていて、怪我のない蘭怜にほっと息をついた時、肩に掛けられた衣。
「風邪を引きますよ」
こんなにも近距離で火が燃え上がっているのに、それを気にもとめない彼は濡れた夏艶の頬を指で撫でると。