【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「―ただいま、夏艶」
懐かしい笑顔で、そう笑ってくれて。
「さっ……才伯様っ?」
数年前、処刑されたはずの人。
それなのに、彼は変わらずに穏やかに笑っていて、都合のいい、自分の夢ではないかと疑ってしまう。
「今は、怜世だよ。李怜世」
「……っっ」
「迎えに来た。父上と黎祥に許可を貰ったんだ。僕と……蘭怜もつれて、下町で。李家の人間として、ひとつの家を借りて、一緒に生きよう」
「なんでっ、生きて……っっ」
「黎祥の恩情だよ。生きていて良いって。……ずっと、下町で君を想ってた。漸く、黎祥と交渉する機会が出来て……迎える準備も完璧だよ。君が構わないのなら、遅くなったけど、僕の妻に……」
―最後まで言わせることなく、夏艶は彼に飛びついてしまった。
もう二度と、会えないと思っていた人。
生きている。
暖かくて、優しく背を撫でてくれる手は遠い過去のままで、何も変わっていなくて。
溢れ出る涙を止めることも無いまま、彼を抱きしめる。
声はあげることは無かった。
声を殺して泣き、そして、彼の温もりを全て奪うように、夏艶は彼に抱きついた。
ずっと、ずっと、不安だった。
孤独であったことが……彼が、そばにいないことが。
怖くて、怖くて、今すぐ、この世界から去りたくて。
でも、蘭怜がいるから去れなくて。
生きていて良かった。
三年前のあの日、生きることを選んで、本当に―……。