【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
君を信じて
「っ、」
黎祥は外衣を叩いて、翻す。
燃え盛る、宮から抜け出して。
「陛下、私は翠蓮様の元に―……」
「やめておけ」
蝶雪が何事かと言おうとするが、それを制す。
「それを破ったら、あいつは怒るだろう」
「ですが……っ」
「大丈夫だ。父上が、一緒なのだから……」
本当は不安でたまらない。
彼女を失ったあとのことなんて、何も考えてはいないのに。
手の中でぐしゃぐしゃになった、紙。
そこに記されている場所に向かって、本当の、本当の黒幕を引きずり出すことが、翠蓮が黎祥に託したこと。
「……蝶雪」
「はい」
「今更だが、お前が翠蓮に従うのは家の為か?それとも、命じられたからか?」
黎祥の後ろを無言でついてきていた蝶雪は「こんな時に何を……」という言葉が読み取れるような、訝しげな声で。
「―どうして、そのようなことをお尋ねになるのです?」
と、問い返してきた。
ここで素直に答えずに言い返してくるところが、本当、李家の娘らしい……というか、李家の教育方針なのか?
自分の言いたいことを、我慢しないところは。
「お前も、李姓だろう」
「……はぁ、まぁ」
「後宮に、同姓のものは入れぬ決まりだ。それで、親と揉めたりしなかったのか?」
普通は揉めるのだ。
身内で……だから、後宮内での殺し合いが絶えない。