【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『姉様……?』
姉はいつも笑っていた。
母が機嫌が良さそうな時は、共に。
姉はいつも、感情豊かだった。
母が泣いている時は、共に泣いて。
姉はいつも優しかった。
母が病に苦しんでいる時は、傍に寄り添って。
姉はいつも、不憫な人だった。
父に母が責められている時は、いつも、矢面に立たされた。
姉はいつも、笑っている人だった。
母が女官を折檻している時も。
母の機嫌を損ねぬため、誰かを守るため、
姉はいつも、笑っていた。
『なあに、そんな顔して』
『あのね、姉様はどうして、いつも笑っていられるの?』
子供ながらの質問に、嫁ぎ遅れとも言われる年の離れた姉は言った。
『自分の心を、殺さないためよ』
―姉の言葉を、昔は、理解出来なかった。
そして、姉が結婚しなかった理由はその後、程なくして、私は知ることになる。
姉は綺麗な人だった。
そして、強い人だった。
泣くことを知らない人だった。
ずっと、笑っている人だった。
そんな姉だったから、私は姉のそばにいた。
姉が大好きだった。
自分でも、驚くほど。
そんな姉が、両親の矜恃の為だけに、他家の養子として、皇族に嫁ぐと知った時はどれほどの憤りを覚えたか。