【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『幸せになってくるわ』
―姉様の声が、耳元で蘇る。
あれは、覚悟の声だったのか。
あんな終わりを迎えることを、知っていたのか。
聡明だった姉様だ。
嫁ぐ日には、予測できていたのかもしれない。
それだけ、名君とは程遠い男だった。―先帝は。
『碧晶』
(姉様っ)
笑ってた。
何があっても。
笑顔だった。
姉様はいつだって。
「……呉妃の所へ行ってみるといい。お前にとっては叔母に当たるが、少なくとも、違う家名だとしても、お前の姉と共に先帝の妃として生きたものだから」
先帝のせいで、権力をとり上げられた、姉上に似た叔母上。
「は、い……はいっ……」
「呉妃には、色々と世話になっている。このような形で、恩を返したくはない。何より……まだ幼い姪を、殺したくはないからな」
恩情溢れる、陛下に心からの感謝を。
「代わりにといってはなんだが、お前はその生涯を皇家によこせ。それが私の、お前にかけられる恩情だからな」
「……っっ」
「泣くな。翠蓮だったら構わぬが、他の女だと……どうも、どうしたらいいのか分からなくなる」
狼狽える皇帝。―ああ、姉様の夫がこの人だったら。
「陛下は何故、私にそんなことまで……」
「まぁ、他人にバレたら、甘いと言われるだろうな。私みたいな皇帝は。―でもまぁ、翠蓮だったら、このようにすると思ったまでよ。翠蓮はそなたの意図に、涙したからな」
寵姫の為。
―それなのに、先帝よりも誠実さを感じる不思議。
理由は同じことなのに。
どうして、こんなにも……。