【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「―……命からがら、駆け付けたのに。何、泣かせてるのよ。黎祥」
膝から力が抜けていき、その場に座り込んだその時。
溢れて止まない涙に手が濡れ、それでも、自分のやったことや今、姉が何を思っているかとか、そんなことを考えたら……ダメだ。胸が締め付けられる。
そんな中、聞こえてきた声に、ゆっくりと私は顔を上げる。
「碧晶、大丈夫?」
煤だらけで、服はぼろぼろで、息を切らして、それなのに、私よりも悲しそうな顔をしている皇后陛下。
「お姉っ、様……」
「うん……うん。話は聞いてる。気づいてあげられなくてごめんね。一人で、苦しかったね」
お姉様、私は決して、許されぬことを致しました。
恨みに任せて、復讐なんて。
それが幸せに繋がる保証もなく、
私自身を壊してしまう可能性があったのに。
「……お姉様を、二回も殺さないであげよう?ね、碧晶」
皇帝陛下も、皇后陛下も、理解を示してくれようとしています。
やったことを考えたら、斬り殺されてもおかしくないはずなのに。
「怯えて、復讐をして、自らの命を投げ捨てるくらいなら、生きて欲しいよ。私は」
「っっ」
「お姉様―円皇后陛下もそれを望んでおられるだろうし、何より、私が貴女に生きていて欲しい」
翠蓮は優しく私を抱きしめて、泣きながら、背中を撫でてくれて。
「お姉さんを愛していたんだよね。生きていて、欲しかった。馬鹿にされたら、悔しくて……守って欲しかったんだよね。殺して欲しくなかったよね。逃げ出せないよね。恨みからは。分かるよ。貴女は、数年前の私と良く似てる。お父様を殺されて、先帝を恨んでいた私と」
どうして、どうして、どうして。
許せない、許せない、許せない。
思うだけじゃ、何も変わらない。
変えられない。
だって、時は戻らない。