【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
事件のあらまし
「名前、か……」
夜。
外朝より戻ってきた黎祥を自宮に招き入れて、寝室で話す。
「志勇は昔から変わらない」
翠蓮と同じく、記憶を有する黎祥。
昔のことを思い出しているのか、楽しそうで。
「そう言えば……紫京叔父上と話したか?」
そんな黎祥の楽しそうな様子を眺めて満足していると、黎祥はふと思い出したように尋ねてきて。
「うん?挨拶はしたよ?」
「話は?」
「特には……」
急に現れて、ずっと、兄様の後ろに立っていただけだ。
志勇や翠蓮のことをただ、優しく見ていて……。
「……そうか。まだ、難しいのかもな」
紫京様は毎日、今日、翠蓮が訪れた瑞鳳殿に訪れては、最愛の恋人や兄に話しかけているらしい。
特に何かをすることがなく、身体も長年の毒による薬による副作用でボロボロで、剣術もまともには出来ないと聞いた。
「いつか、話をしようと言われたら、翠蓮、叔父上に答えてくれるか」
かつて、翠蓮にとっても叔父だったはずの人。
「分かってるよ」
―鳳雲お父様が、実は実父ではなくて。
挙句、皇族―先々帝と母親を同じくする、弟で。
先の権力争いの時には、兄の剣として、戦場を駆け抜けた若き獣。
数々の伝説を残す人が、自分を救ってくれた。
自分は捨てられた、誰にも必要とされなかった子供なのだと……そう思う度、思い起こされた鳳雲お父様の言葉。