【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「母上!」
清宸は嬉しそうに皇太后に近づくと、皇太后もまた、愛しそうに我が子の頭を撫でる。
先々帝がどこかよそよそしいのは、それほど、彼らと触れ合ってこなかった証拠だろう。
「お久しぶりです。父上」
それでも、優しく笑って対応する豹揮は、本当によく出来た皇子様だと思う。
大抵の皇子皇女は、先々帝に文句タラタラだったから。
先々帝は慣れない手つきで、清宸の頭を撫でる。
そんな下町ではよく見る四人の幸せそうな家族の姿の傍らで、豹揮たちと共になだれ込んできた面々は笑顔で。
「会いたかった!翠蓮!」
「「翠蓮ー!!」」
「鈴華様!宵琳様!叡季様!」
「お久しぶりです、翠蓮様」
「明鈴!」
すっかりここでの生活が身についたのか、明鈴は優しく穏やかな顔をしていて。
「蘭花様のことを聞きました……驚きです」
「……」
翠蓮は、それに微笑むことしか出来なかった。
だって、彼女は確かに栄貴妃の侍女としては立派で、翠蓮たちに優しくしてくれた人だったから。
「栄貴妃様は……」
「最初は落胆がすごくて、体調を崩されたけど、黎祥の……陛下の恩情で、少しずつ持ち直してる。完璧に持ち直したら、こちらに来ると思うから……その時は、どうかよろしくね」
最初の頃に約束した、栄貴妃様の自由の約束。
慧秀兄様と幸せになりたいという彼女の願いを、ようやく、翠蓮と黎祥は叶えてあげられる。