その悪魔、制御不能につき
◇軽く殺意湧いたわよね



っ、……なんか、今背筋が寒くなったんだけど。やだ、風邪かしら。


念のために今日は早めに休もうと決めつつ仕事をさばく。今の社長になってから業績が上がったのはいいがおかげで仕事の方はてんてこ舞いだ。まぁそれはいい。こっちにも給料に反映されるし。


良くないのは社長と副社長である。いや、2人とも悪いことはしていないんだけど。しかしじゃあ誰のせいかと聞かれれば社長と副社長のせいだと答えるしかない。


あのルックスだ。最初から予想はしていたがもうすごいとしか言いようがない。事務から受け付けから営業から、あらゆるところから自分に自信のある女性が突撃してくる。


見た目もいいし、もしかすると玉の輿に乗れるかもと希望を持った女は怖い。本当に同じ性別なのかと疑ってしまった。これは確かに社長室が隣のままだったら会社辞めてたわ。


そして突撃をかました女性はその日から二度と姿を見ることはなかった。……え、何それホラー?と思ってしまったのは私だけではない。秘書課の総意である。


いや、本当に来ないのだ。どういう手段を使ったのは不明だが社長室に突撃訪問した女性はその日から数日のうちに会社を辞めている。


勇気あるものが副社長にさりげなく聞いたことには「あぁ、あの方たちですか。ふふ、仕事をしない媚びを売るしか能のない社員など社長及びこの会社には不必要ですから私が手を打ちましたが…聞きたいですか?」と穏やかな微笑みとともに返されたとか。もちろん恐ろしくて詳しい内容は聞けなかったと若干震えながら言っていたが、聞けるだけ賞賛に値する。


さすが副社長に就くだけあって一筋縄ではいかない人だと目の当たりにした一件である。そして社長および副社長には逆らってはいけないと秘書課の全員が理解した瞬間でもあった。


一番に動いたのが今まで評判の良くない女性ばかりだったからいいものを、社長への特攻がなくならなければ悪い噂になるのではないかと不安にも思ったが思うだけ無駄である。そんな方向にはいかないだろうなとしみじみ思った。



「斉木さん、頼んでいたものはできていますか?」


「はい、こちらです」


「あぁ、ありがとうございます」



チラリと確認して微笑む姿に未だに納得できなくて問いかけるような眼差しを送るものの、その全てを察知しながらも副社長…都築さんは穏やかで人を魅了する笑みを浮かべた。



< 11 / 70 >

この作品をシェア

pagetop