その悪魔、制御不能につき
どうした?とあいも変わらず表情の薄い社長に笑みを作りつつなんでもありませんと首を振る。
「あの、私のことは斉木とお呼びください」
「なぜ?」
「仕事中ですから」
「今は俺とお前だけだろう?」
「………」
それなのに駄目なのかと無表情ながらに不思議そうに首を傾げる姿に思わず眉をひそめてしまった。不快とかじゃなくて純粋に疑問というか、不可解というか。
そもそも私、社長に名前を呼ばれるような関係じゃないのだけど。というかほぼ私の知り合いとかも名前じゃなくて名字で呼んでもらうようにお願いしてるし。
社長にもそう言うべきかどうか躊躇っているうちにドレスを褒められたのでとりあえずお礼を言う。まぁ状況云々は抜きにして私も一応女ではあるし、綺麗に着飾っているのを褒められれば悪い気はしない。
「そういえばこれ、パーティーが終わったらどこに返せばいいでしょうか?」
「…?それはお前のものだが?」
「は?」
いや、「は?」は我ながらない。ないとは思ったけどいきなり身に覚えのないものを私のものだと言われても驚くしかないでしょうが。
しかもなぜ社長が「え?」みたいな顔してるの?そうしたいのは私の方よ。
「それは輝夜のために用意したから輝夜のものだ。俺が持っていても仕方ないだろう」
………、え。これレンタルとかじゃなかったの?しかもこの言い方社長の財布から出したっぽいんだけど。え、嘘でしょ。
頭の中で算盤弾いてドレスやアクセサリーの値段を考えてしまったのは仕方ないことだと思う。だって私一般家庭の出で高級なものとはあまり縁のない生活だったし。
唖然としているとパーティーの始まる時刻になったようで「行くぞ」と言う社長の声に今はこちらに集中しようと思考を切り替えた。仕事仕事。