その悪魔、制御不能につき
お見合いの日時や場所など順調に決めつつ仕事場では普段通りに過ごす。ここで変に行動すれば本能で察知する社長と聡い都築さんにバレる。慎重に、慎重に、もう一つ慎重に進めなければ。
今なら私、スパイとかの気持ちがわかるかもしれない。世のスパイたちは被虐趣味でもあるのかしら、過ごしてるだけで精神的に疲れるんだけど。そして仕事以上にこんなに真剣に物事に取り組んだのなんて学生以来だわ。
そうして精神的に追い詰められながらも冷静なふりして胃がキリキリしているのを隠し、社長からの誘いをそつなく躱して都築さんの見透かすような視線にも平然とした態度で切り抜けて迎えた見合い当日。
流石にこの歳で振り袖なんてかなり気合いの入った格好をする気力は湧かなかったので綺麗めのワンピースを着て待ち合わせのホテルに向かう。
お見合い、は置いておいて、結婚か…我ながら結婚とか縁がなければしないだろうなと思っていたのでこういう状況になっているのが不思議な感じがする。
もしかしたら今日のお見合い相手と結婚するのもあり得るのかしら。釣り書を見た感じだと穏やかそうな人だったわよね。少し歳は離れてたけど許容範囲内だし。
実際のところは人柄とかを見て決めるだろうけど、まぁありか無しかで言えばありよね。社長から逃げるためとは言えもしかしたらこのままトントン拍子で結婚するかもしれないのだからいい人だといいのだけど。