その悪魔、制御不能につき
逃げたいと思うのにあまりの事態と想像できる未来に硬直した体は私の言うことなんて聞くはずもなく、都築さんが出て行ったあとの部屋は何かを言うのも躊躇わせられ不自然な静けさに包まれた。
……何を言っても墓穴を掘る気がする。だって一応彼女の私が社長に黙ってお見合いしようとして、あわよくばそのまま結婚にまで持っていこうとしたのだから、普通に見れば私が悪い。悪いんだけど、それを認めるのはなんだか釈に触る。
「輝夜、」
「……っ、!」
今日初めて社長の顔をまともに見た。いつもと変わらない姿が気まずい。思わずパッと顔を背けてしまい、余計に罪悪感のようなものが増す。
お互いの息づかいまでも聞こえそうな空間で衣摺れの音と靴の音がして抱きしめられる。ふわりと社長からはいつもの香りがした。
「……あの、しゃちょ、」
「何も言うな」
ひんやりとした指先がそっとうなじを辿る。
「何も言わなくていいから、」
ぐっ、と冷たい指先が肌を圧迫して。
「俺の全て、受け入れろ」
貧血を起こしたように意識が暗転した。