その悪魔、制御不能につき
「かぐや、」
「もっ、…やめ、…、」
どれだけの時間が経過したのかわからない。数時間のような気もするし一日以上経っているような気もする。
時計を置けと言っているのに未だに置いていないのは何かこだわりでもあるのかと無関係なことを考えればこちらに意識を向けろとばかりに肩に噛み付かれた。
血が出るまで強く噛まれてはいないけど私の肌にはいくつもの鬱血痕や噛み跡が刻み付けられていて、これはもう愛情表現というよりは酷い執着心の表れのようだ。元から痕をつけたがる人だったけどここまでされるのは初めてで。
首筋、胸元、お腹も背中も足も、いたるところを吸われて噛まれてもう数えるのが馬鹿らしく思えるほど。逆にこれほどされるとちょっと怖い。
傷を負った獣を慰めるように噛み痕を舐められながら体を揺らされて目の前に火花が散った。縋るように肩に手を伸ばせば片手で頭上にまとめられてしまう。
何度も何度も高められて、でも頂点になるギリギリで止められて理性がぐずぐずと崩れるのが分かる。
「まだだ……もっと、」
「お、ねが…、しゃちょ、むり、…だからっ、ぁ」
「鷹斗だ、輝夜」
「、っ……、たか、とっ…」
おねがい、と回らない呂律で望みを言えば褒めるように目を細めてうっそりと笑みを浮かべる社長は直視するのを躊躇うほどに蠱惑的で脳がくらくらする。
まなじりからこぼれた涙を舌で掬われて唇を塞がれる。それすらも声が上がりそうなほど気持ちがいい。容赦なく攻められてあふれる寸前まで高められた体はすぐに陥落して声が止まらない。
解放された腕を背中に回して爪を立てる。私ばかりが翻弄されることに対するせめてもの対抗を社長はどこか恍惚とした表情で受け入れた。
「輝夜……輝夜……」
「、んっ、…っ、ぁ、」
目の前がチカチカして真っ白になる。あ、これはまた意識を失うな、とまだ残っていた冷静な部分が告げた。
「受け入れろ、俺を」
揺さぶられて与えられる快楽に体を支配されながら掠れた声が耳に触れて背筋が震える。ただでさえ色っぽい声がさらに艶を含んで脳髄を揺らす。
あぁ、まるで悪魔の誘い。人を堕落させる囁きだ。こちらの方がいいよと底の見えない闇の中に手招きして、私を引き摺り込む。
その闇の中がどれほどの心地よくて気持ちよくて、甘美なものなのかを私はすでに知っている。知っていて逃げ出すのは、嫌だから。不確定で強烈すぎる感情を向けてくる社長を好きだと思うと同時に、私は怖い。
「望め、輝夜」
遠くなる意識の中で社長が酷く飢(かつ)えた表情で私を見つめているのがわかった。そうして私の意識は溶けていった。