のばら
「ねー、今日買い物付き合ってくれない?」
帰りのホームルームの途中、まだ先生が喋っているのに、のばらは振り向いてあたしに話しかけてくる。
30代後半の担任の男性教師は、のばらを軽くにらんだだけで注意はせず、喋り続けた。
これが男子なら、即、雷が落ちるだろう。
美人って得だな。
あたしはのばらに無言でうなずいてみせながら、そっと溜息をついた。

そう、のばらは美人だ。
大きな切れ長の目に、筋の通った鼻。
リップを塗らなくても桜色に艶めく唇。
のばらの笑顔はその名の通り花が開いたようにあでやかで、誰もが惹きつけられる。
長く豊かな髪の毛を、たいていポニーテールに結っている。
極めつけは、すらりと高い身長と長い手足。
彼女が歩くだけで、周りの空気がしゅっと引き締まるように感じられる。
独特のオーラがあるのだ。

成績がいいわけではない。運動もそこそこ。
それでも、のばらの周りには人が集まる。
のばらの身につけるものを、みんなが真似する。
そんな彼女が、今日もあたしの隣りにいて、あたしを頼りにしている。
それは、めまいがするほどの優越感だった。
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