のばら
翌日は体も心もだるくて重くて、初めて登校拒否したいと思うほどだったけれど、根がまじめなあたしはローファーに足を通してしまう。
自転車のペダルを踏みこみながら、昨日の時田くんの困ったような顔を、どもりながら発せられた声を、何度も反芻した。
自分がみじめになるだけなのに。

ああ。
そろそろ、なのだろうか。
あたしの胸の奥で寝かしつけている秘密を、揺り起こすのは――――。

学校に着いてものばらは現れず、スマホをチェックするとLINEが届いていた。
「おはよー。今日、ものもらいができちゃって学校休むことにした(ドクロの絵文字)。弟にうつされた(怒りの絵文字)。土曜日のは絶対行くからね!!(ハートの絵文字)」
あたしは無表情で「お大事に」のスタンプを送り、スマホの電源を落とした。

美術・音楽・書道から選択する芸術の授業は、迷わず美術を選んでいた。
中学のとき、美術部だったのだ。
音楽と迷っていたのばらも、結局あたしに合わせて美術にしていた。
「真田さん、佐々木さんがいないと寂しいでしょ」
いつも向かいの席に座る倉科さんが、絵筆を動かしながら言った。
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