あの時からずっと、君は俺の好きな人。
そうすれば、この先誰かがいなくなっても耐えられるんじゃないかって。


「ーー例えいなくなったとしても。それまで過ごした記憶は残るよ」


すると水野くんが意を決した様な声で言った。思いがけない言葉に、私は虚をつかれた。

もしこれが水野くん以外の人間の言葉なら、私は聞く耳すら持たなかっただろう。

しかし私と同じように家族を失っているらしい水野くんの言葉だったから、しっかり意味を考えてみようと思えた。


「記憶……?」

「吉崎さんがご両親と過ごした楽しかった思い出は、頭の中に残ってるでしょ?」

「頭の中に……」


言われて自然と両親との記憶が浮かんできた。

小学校の入学式。初めて水泳の大会で優勝した時の喜んでくれた顔。誕生日にお祝いしてくれたこと。

ーー数え切れない程のパパとママとの記憶。

だけど、2人の写真すら数年も見ていない私は、すでに両親の顔がぼんやりとした記憶になっていた。
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