あの時からずっと、君は俺の好きな人。
三上さんが踵を返し、駆け出そうとした。ーーしかし。


「待って!」


今まで俯いていた坂下さんが声を上げた。三上さんは足を止める。


「ちゃんとした証拠もないし、舞ちゃんが怒鳴り込んでもかわされるだけだよ。やめよう」

「でも……!」

「うん、私も先輩達だとは思うけどさ、たぶん。ーーでもやめよう。舞ちゃんが悪者にされちゃうかもしれないから」


坂下さんが弱々しく微笑んで言うと、三上さんは大きく嘆息をした。

当の被害者である坂下さんに止められたことで、先輩達に怒りをぶつけに行くのは諦めたらしい。


「ーーでも、どうする? リレー」


内藤くんの言葉に、全員が沈黙する。

坂下さんは大会に出られなくなってしまった。出場するには代理を立てるしかない。

クラスの誰かにお願いすれば、ひと泳ぎくらいしてくれる人は見つかるだろう。ーーしかし。

それでは今までの練習の成果が水の泡になってしまう。

みんなで練習した無駄のない中継のコツや、綺麗になったフォームが、代打の人間に務まるとは思えない。
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