あの時からずっと、君は俺の好きな人。
ドルフィンキック……?

そこで私ははっとすると同時に、水野くんの先刻の言葉を思い出す。

ーー『泳法は自由ってルールがあるよね』

そうだ。なんで忘れていたのだろう。私がいちばん得意だった泳ぎは。事故の直前、全国大会で2位になった種目は。

クロールじゃない。

第四泳者の新田くんが勢いよく私の方に近づいてくる。私はちらりと、反対側のプールサイドにスタンバイしている水野くんの姿を見た。

ーー私、やってみるよ。水野くん。

そして新田くんがプールの壁にタッチすると同時に、私は勢いよくプールへ飛び込んだ。

そして迷わずにバタフライで泳ぎ始める。

息継ぎのタイミングで、プールサイドから「バタフライ!?」と驚愕する声が聞こえてきた気がした。

ーーなんてスムーズに泳げるのだろう。先程のクロールで感じた6年間のブランクなんて、嘘のようだった。

私の体が、心が。バタフライを覚えていた。

私は水と同化したように、味方につけるように泳ぎ、25メートルを泳ぎ切った。するとすぐ頭上で水野くんが飛び込んだ。
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