あの時からずっと、君は俺の好きな人。
水泳とか、勉強とか、何かを頑張ったところでもう喜んでくれるパパとママはいない。

なっちゃんは喜んでくれると思うけど、また突然いなくなってしまうかもしれない。

何かに本気になったところで。ーー誰かを好きになったところで。ある日突然無意味なことになってしまうかもしれない。

あの事故で大切な家族を失った人を大勢見てきた。

一家全滅した家庭だって何家族もあった。結婚間近の恋人を失い泣き崩れる人。一人旅をしていたまだ小学生の一人息子を失った両親。

あの日の事故は、それまで積み上げてきた幸せを、なんの前触れもなく、一瞬で無慈悲に破壊した。

ーーそんなことがまたいつか起きるかもしれない。もしかしたら近いうちに。いや、明日に。ひょっとすると数秒後に。

だから毎日淡々とこなすだけ。可もなく不可もなく、ぼうっとそつなく生きていく。自然とそうなっていった。

あんなに好きだった水泳は、あれ以来やっていない。授業ですら拒否している。やる気なんて起きるわけない。
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