あの時からずっと、君は俺の好きな人。
もうこの世の人じゃないんだ。きっと6年前から。


「初めて君と会ったのはここのプールだったんだ。たぶん君は知らないだろうけど」


水野くんは、私の姿を認めると、微笑んだ。優しくーーどこか切なげに。

私はゆっくりと彼に近づいて、傍らに立つ。

近くで見ると、彼の透明感がはっきりと分かった。透けた彼の全身は、彼の背後の景色すら透過していた。


「6年前、俺も一家でここに泊まっていてね。このプールにも泳ぎに来た。そこで見たのが……楽しそうに、しなやかにバタフライでプールの中を自由に泳ぎ回る君だった。その姿があまりにも優雅で、美しくてーー人魚みたいだって思った」


水野くんは私の顔をじっと見て、笑みを濃くした。


「俺は君に、生まれて初めての恋をした。ーーだけどそれは人生最後の恋でもあった」


生まれて初めてのーーそして人生最後の、恋。

私は何も言うことが出来ず、彼を見つめ返した。唇を固く引き結んで。


「恋をしたって言ってもさ。小学生の男子なんて何をしたらいいかわからない。話しかけることも出来ずに、ホテルで見かける君をドキドキしながら眺めるだけだった。大阪を離れる日まで、俺は何も出来なかった」
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