あの時からずっと、君は俺の好きな人。
2018年9月 心の一番深い場所



秋分の日の静岡の山中は蒸し暑かった。私は時々草むらに座ったり、水分を補給しながら1人で山道を歩いていた。

山道をといっても、慰霊登山のためにそれなりに整備されていたので、迷うことは無かったし、歩くのもそこまで大変ではなかった。

秋のお彼岸の日。私は1人で水野くんの墓標があるはずの場所を目指していた。

私たち2人が新幹線から投げ出され、私が救出され……水野くんが亡くなった場所を。

ーー水野くんが修学旅行先のホテルのプールで消えてしまったあと。私が彼に思いを告げ、彼がいなくなってしまったあと。

クラスメイトのみんなは、水野くんの存在を忘れてしまっていた。

美結も、新田くんも、内藤くんも、三上さんも、坂下さんも、なっちゃんも。

水野くんが座っていた席は、「なんでここ誰もいないんだっけ?」と不自然がられていた。

水野くんの存在を、私以外の全ての人間は、最初からなかったかのように忘れられていた。すっかり、完璧に。ーーだけど。

美結はたまに「藍に好きな人が出来たような気がしたんだけどなあ。誰だったかな?」と私に言う。
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