あの時からずっと、君は俺の好きな人。
身を起こした彼女はその場に座り込んだ。

俺も隣に腰を下ろす。ーーというか、すでに出血が酷くて立っていられなかった。本格的にまずい状況だ。


「パパとママは……?」


彼女はぼんやりとした表情で、うわ言のように呟いた。

この子の両親は新幹線とともに崖から真っ逆さまに落ちてしまっただろう。

ーーたぶん、もう……。

だけどここで事実を伝えてしまったら、彼女の生きる希望がなくなってしまう。こんな山奥だ。救助なんていつ来るかわからない。

助けが来るまで、彼女は頑張らなければいけないのだ。


「ーーわからないけど。たぶん、どこかにいると思うよ」


曖昧に言葉を濁す俺。彼女はしばらくの間何も答えなかった。そして震える唇で、言葉を紡いだ。


「怖い……ここ、どこ? パパ、ママ……」


俺の隣でガタガタと全身を震わせる彼女。事故のショックで混乱しているようだった。

予想外て衝撃的な新幹線の脱線事故に直面したのだ。無理もない。

ーー俺が冷静なのは、きっと人の死を目の当たりにする機会の多い、外科医の父の遺伝子のせいなのだろう。
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