あの時からずっと、君は俺の好きな人。



「運動はそんなに得意じゃないんだけど、中学生までスイミングスクールに通ってたから、泳ぎだけはそれなりなんだ」


ホームルームが終わったあと、ほぼ強制的に選手に選出してしまった三上さんと坂下さんに一言お礼を言っておこうと思った。

まずは近くにいた坂下さんに声をかけてみた。

彼女は大会の選手に選ばれたことに対して、特に嫌がっているような様子もなく。

「ありがとう、引き受けてくれて」と言った私に笑顔で接してくれた。


「へー。スイミングかあ」


ーースイミングスクール。遠い昔に私も通っていた。バタフライが得意だった。

しかしあの頃のひたむきで真っ直ぐな私は、すでに死んでしまっているのだ。

心から泳ぐことを楽しむ機会なんて、きっと私にはもう無い。


「足引っ張らないようにするね」

「そんな。すごく頼りになりそうなタイムだよ」

「ーー頑張るね」


私が正直に褒めると、坂下さんははにかんだ笑みを浮かべた。

眼鏡でショートボブで大人しそうな彼女は、真面目に練習にも参加してくれそうでー一安心。
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