あの時からずっと、君は俺の好きな人。
「なんかさ、何事も楽しむっていうか、手を抜かないっていうかさ。前向きでいいなあって思うわ」

「ーーへえ」


ーー私とは正反対だ。

私の本性を知ったら、きっと水野くんは私みたいな空っぽな人間なんて、嫌いになるんだろうな。

すると、三上さんが困り顔で水野くんに話しかけに行った。


「ーーまあ、私もそれなりに頑張るよ。でもさ、ごめん。私バレー部の方も頑張りたくて。そろそろ練習行ってもいいかな?」


まだ練習が始まって30分ほど。切り上げるにしては早すぎだ。

しかし、水野くんは特に気分を害した様子もなく。


「あ、うん。みんなそれぞれ都合があるしね。できる範囲でやれば、いいんじゃない?」


三上さんが安堵したように笑う。


「そっか、ありがと。じゃ、行くね」


そして彼女は早歩きでプールサイドを移動し、更衣室の方へと行ってしまった。

途中私の前を通り過ぎたが、挨拶はおろかこちらを見ようともしなかった。ーー知ってたけどね。

蒼太くんーーやることはやるけれど、人にまでそれを押し付けない。自分はできるだけ楽しむけれど、強制はしない。

無邪気そうだけど、実は大人な人なんだな。

私は再び練習を再開しようとプールに飛び込んだ水野くんを見て、ふと思った。
< 52 / 229 >

この作品をシェア

pagetop