あの時からずっと、君は俺の好きな人。
手から伝わる嫌悪感。なんなんだろう、この盛大な勘違い男は。

たぶん、こんな目に遭ったら正常な女子なら怖いと思うんだろう。

もちろん何をされるかわからないから、少しの恐怖感はあったけれど。

だけど、いつ死んでもいいと常日頃思っている私は、恐怖よりも面倒だなあという思いの方が大きかった。

どうやって納得して帰って頂こう。こんな現場を見られたら、なっちゃんがいらない心配をするから、早く対処したいなあ。

ーーなどと、私はぼんやりと彼を見ながら半ば他人事のように思っていると。


「ーーねえ。あんた何やってんの」


不意に聞こえてきた、少しハスキーな少年らしい声音。いつの間にか、私の傍らにはーー。

水野くんが立っていた。


「え……? 水野くん……?」


突然の水野くんの登場に驚く私だったが、彼は私の方は見ずに、勘違い男の方を睨む。

そして私の手を握っていた勘違い男の手首を掴み、強引に私から引き離した。


「……なんだよ、お前」


勘違い男が凄みを利かせた声を発し、水野くんを鋭く睨み付ける。

しかし水野くんはまったく臆する様子もなく、静かに怒りを湛えた瞳を男にぶつけていた。
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