あの時からずっと、君は俺の好きな人。
勘違い男に絡まれている時は、気を張っていたのか、そこまで大きな恐怖は感じていなかった気がしていた。ーーだけど。

急に湧き上がってきた、座り込んでしまうほどの安堵感。

私は自分が考えていた以上に、先刻の出来事に畏怖の念を覚えていたのかもしれない。


「え、え、どうしたの!? 俺、なんかした!? それともさっきの奴になんかされてたの!?」


急に脱力した私に、うろたえながらも心配の声を上げる水野くん。


「あー……えーと……」


私はまだ立ち上がれず、しゃがみ込んだままぼんやりと答える。

ーーすると。


「ただいま〜。鍵届けてきたよー。藍、店番ありが……ん!?」


おばあちゃんの家へ行って鍵を渡してきたらしいなっちゃんが、お店に戻ってきた。

しゃがんだまま首を上げると、なっちゃんは座り込む私を呆然と眺めていた。
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