あの時からずっと、君は俺の好きな人。
ーーそして。


「ーーおいクソガキ。私のかわいい藍に何してくれてんの……?」


なっちゃんはドスの効いた声でそんなことを言い、ゆっくりと水野くんに近寄った。

水野くんを今にも殺しそうな勢いの殺気を、瞳に内包して。

ーーえ。やばい。

しゃがんで呆けた表情をしている私を見て、どうやらなっちゃんは、水野くんが私に何かしたんじゃないかって勘違いしているようだ。


「ーーえ!? いや、俺は……」

「藍に何してんだ! こらあ!」


そんななっちゃんを怯えたように見ながら、後ずさる水野君だったが、なっちゃんは逃すまいと詰め寄った。


「ちょ……ま、待って!」


私がなんとかしないと。しかしまだ立ち上がる気力がなく、声も張れない。

興奮したなっちゃんには、そんな小さな私の声は届かないようだった。


「おい! なんとか言えよ!」

「え、あ、あの……その……」

「ま、待ってー! なっちゃーん!」


ーーこの後なっちゃんの耳になかなかわたしの説明は届かず、彼女が正しい状況を理解するのに、しばらくの時間を要した。

そしてその間、激怒したなっちゃんに水野くんは怒鳴られ続けていた。
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