あの時からずっと、君は俺の好きな人。
ダージリンティーを煎れて焼き菓子並べたお皿をダイニングテーブルに置いたなっちゃんは、そそくさと店舗の方へ戻ってしまった。

ーー水野くんと二人っきりになってしまった。


「あ、すげーうまい、お菓子」


椅子に座った水野くんはいつもの調子で、ブラウニーをかじりながら素直な感想を述べる。向かいの椅子に座る私は曖昧に笑う。

変な男に絡まれているところを見られたし、助ける口実とはいえ「俺の彼女」なんて言われたし、そのあと力が抜けてその場に座り込んでしまったし。

いろいろ恥ずかしいところを見られてしまい、どんな顔をして接したらいいかわからなかった。


「……あ、水野くん。まずは、ありがとう」


とりあえず助けてくれた礼を言うのが先決だろう。


「いーっていーって。まあ、たぶんもう大丈夫だと思うけどさ。また付きまとってきたら、俺が彼氏って設定、使っていいからね」


軽そうな口調で水野くんは言うけど、あの時の勘違い男は切羽詰まった危ない雰囲気があった。男の人でも怯んでしまう人も多いだろう。
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